研がない強がり 嘘で塗り固めた部屋

叫びたい衝動を堪えて

 

平気な振りして過ごしている

 

本当は傷付いているのに

 

何でもないって顔を作る

 

 

 

 

 

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本音を言うのは嫌だった。

格好悪いことのように感じていた。

昔からそうだ。

 

思ったことも言いたいことも

頭の中で反芻してみて

こねくり回して綺麗に包んで

それから口に出す。

 

それは最早本音とは程遠いものだ。

 

 

 

 

20歳の時、18歳で付き合っていた彼と再会した。

私の成人式の日だった。

若い時代の2年という歳月はとても長く

友達としてやり直す準備には十分な期間だったようだ。

私たちは連絡先を交換し、今度遊ぼう、と笑い合った。

 

その日の夜、成人式の後で飲み会へ参加していた。

昼間再会したばかりの彼から連絡がきて

暇だと言うので飲み会に誘ったのだった。

 

 

それからは時々会って遊ぶようになり

向こうからまた付き合いたいと言われた。

丁度付き合っている相手もいなかったし

勝手がわかっている相手は楽だ。

2人とも少しは成長しただろうし

今度はうまくやれるだろうと思った。

 

 

初めのうちは楽しかった。

彼は優しい人であったし、

いつも好きだという気持ちを

ストレートに表現してくれた。

 

ただたまに連絡が取れないことがあったり

デート中、電話が掛かってくると

わざわざ離れて電話をすることがあった。

 

もしかしたら浮気しているのかもしれない。

そう思ったけれど私には何も出来なかった。

彼の私に対する優しい態度は変わらなかったし、

何より携帯を覗いたり、証拠を探したりという行為が

単純に浅ましいように感じて嫌だったのだ。

 

 

 

ある日 友人とカラオケに行く途中

立ち寄ったコンビニで彼と会った。

 

彼は女と来ていて

その女は親しげに彼の名前を呼んでいた。

彼は小さな子を抱いていた。

彼女の左手の薬指には指輪があった。

 

彼は確かに浮気をしていた。

ただ、その浮気相手は私の方だったのだ。

 

その場で問い詰めてやりたかった。

 

結婚しているなんて聞いていない

子供までいたなんて

これはどういうことだ

いつから結婚していたのか

最初からちょっと遊びのつもりだったのか

馬鹿にするな

過去にあんな事があったのに

アンタはまだ私を傷付けたいのか

 

そう怒鳴りたかった。

言いたい言葉は山ほどあった。

次から次へと頭に浮かんでくる

止めどもない言葉。

 

だけど私はそれをしなかった。

格好悪く惨めな姿を晒したくなかったからだ。

彼は私に気付くと心底驚いた顔をした。

私は彼に一瞥をくれ、コンビニを出た。

何でもない顔をして友人とカラオケへ行った。

 

“あとで会えない?”

彼から連絡が来ていた。

 

「今日は友達と遊んでるから明日ならいいよ」

いつも通りに返信をした。

まるで何も見てなどいないように。

 

その時の私の本音はこうだ。

 

騙されて不倫相手にさせられたのに

アンタだけ幸せに暮らすなんて絶対に許さない。

絶対にブチ壊してやる。

 

本当に、そう思った。

何事もなかったかのように会って、

言い訳を聞いて、許してあげて、

彼の家庭を壊してやろうと本気で考えた。

 

少したってまた彼に連絡した。

 

「やっぱ明日もムリ。二度と会わない。理由はわかるよね」

すぐに電話が掛かってきたが、無視をした。

メールにも返さなかった。

そうして私たちは また終わったのだった。

 

 

 

本当は言ってやりたかったことも

全部飲み込んだ。

一発くらい殴ってやりたかったけど

それもしなかった。

 

全部、自分を騙すためだ。

 

私は別に傷付いていないし

彼がいなくても平気で過ごせるし

縋り付いて引き留めるような相手でもない

 

 

本当は傷付いていたのに

惨めにならないよう

平気な振りをした。

格好悪い自分を晒さないよう

言い訳をして自分を騙した。

そうでもしなきゃ泣き出しそうだったからだ。

 

恋愛なんかに

二度と傷付くのは嫌だった。

 

どうしようもなく叫びたい衝動を堪えて

画面に流れていく歌詞だけを

ひたすら目で追っていくのだった。